冬の朝、蛇口をひねっても、一滴の水も出てこない。そして、日中になり、気温が上がった頃、家の外から「シューッ」という、水の噴き出す音が。これは、冬の寒さが厳しい地域で、毎年多くの家庭を悩ませる、「水道管の凍結・破裂」という、深刻なトラブルです。一度破裂してしまうと、大規模な水漏れと、高額な修理費用という、ダブルの被害に見舞われます。しかし、この冬の悪夢は、いくつかの簡単な予防策を、事前に講じておくだけで、そのリスクを大幅に減らすことが可能です。水道管が凍結・破裂するメカニズムは、非常にシンプルです。夜間、外気温がマイナス四度以下になると、水道管の中の水が凍り始めます。そして、水は凍る際に、体積が約十パーセント膨張します。この、氷が膨張しようとする力に、水道管が耐えきれなくなり、亀裂が入ったり、破裂してしまったりするのです。これを防ぐための、最も基本的で、効果的な対策が「水抜き(水落とし)」です。これは、就寝前や、長期間家を留守にする際に、水道管の中に残っている水を、全て排出してしまうという方法です。多くの寒冷地の住宅には、「水抜き栓」という、家全体の水道管の水を、一括で抜くための装置が設置されています。その操作方法は、建物の種類によって異なるため、事前に確認しておくことが重要です。水抜き栓がない場合でも、個別の対策は可能です。まず、「屋外に露出している水道管」の凍結を防ぐためには、ホームセンターなどで手に入る、保温材(保温チューブ)や、古いタオル、毛布などを、水道管に何重にも巻き付け、その上からビニールテープなどで、雨水が入らないように、しっかりと固定します。屋外の蛇口も、同様に保温材で覆いましょう。次に、より手軽な方法として、「水を出しっぱなしにする」という方法もあります。就寝前に、家の中の蛇口を一箇所だけ、箸の太さ程度、糸を引くように、チョロチョロと水を流し続けておくのです。水が常に流れている状態であれば、凍結することはありません。確かに、少量の水道代はかかりますが、水道管が破裂した際の修理費用を考えれば、はるかに安上がりな保険と言えるでしょう。これらの、少しの手間を惜しまないことが、厳しい冬を、安心して乗り越えるための、賢明な知恵なのです。